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大和逍遥   

別に運営している「三友亭雑記」というブログのバックアップである。

秋・・・

長々と続いた8月の帰郷についてのレポートがやっと終わった。どうでもいいような駄文にひと月以上もおつきいただいた皆様には感謝しきりである。なにぶんかなりの大枚をはたいての取材(笑)ゆえ、このぐらい書かせてもらわないと元がとれないとのさもしい根性のなせる業である。ご容赦いただきたい。

さて、いつまでも夏の思い出に浸っているうちに、仲秋の名月も明後日に迫り、大和路は秋色満面といった風情になってきた。台風18号もさらにその季節の進行に拍車をかけたように思われる。そろそろ、書きかけの「初瀬・・・忍阪、そして阿騎野へ」の続きに入りたいが、今回はそれはちょいと置いといて・・・その台風来襲の前日、すなわち9月14日の、恒例の週末散歩で見かけたものをご紹介したい。とはいっても、何も珍しいものは一つとてない。くれぐれも過分なご期待はなされないよう・・・

まずは曼珠沙華

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散歩の途中のあちらこちらで見かけられた。まだ咲き始めといった風情で、このぶんなら彼岸花というその名よろしく、お彼岸の頃には最盛を迎えることと思う。英語名のハリケーンリリィの名の由来は知らぬが、実感として言い得て妙なる命名であるなと感じさせる開花のタイミングである。

ところで、曼珠沙華と言うと私には1つの強烈な思い出がある。それは結婚して間もない頃のことだ。妻は学生の頃、声楽を習っていたのだが、その師匠たちのグループのコンサートがあるというので一緒に出かけた時だ。いよいよお待ちかねの妻の師匠の出番、その師匠は美しいソプラノで朗々と歌い始めた。

曼珠沙華 (詩 北原白秋山田耕筰)である。

Gonshan,Gonshan 何処へゆく 赤い お墓(はか)の曼珠沙華(ひがんばな) 曼珠沙華 けふも手折りに来たわいな Gonshan,Gonshan 何本(なんぼん)か 地には七本 血のやうに 血のやうに 丁度 あの児の年の数(かず) Gonshan,Gonshan 気をつけな ひとつ摘(つ)んでも 日は真昼 日は真昼 ひとつあとからまたひらく Gonshan,Gonshan 何故(なし)泣くろ 何時(いつ)まで取っても 曼珠沙華 曼珠沙華 恐(こは)や 赤しや まだ七つ

ざっと一読して、その世界の異様さをお感じになられたとは思うが、私が引っかかったのが何度も繰り返される「Gonshan・・・ごんしゃん」という言葉。「ごんしゃん」とは白秋の故郷柳川の方言で「良家の令嬢」とのこと。秋の太陽の下、そんな「良家の令嬢」に曼珠沙華を摘みに行く光景だけでも充分に不気味ではあるが・・・

私はこの「Gonshan」という部分を「Bonsan」、すなわち「坊んさん」と聞いてしまったのだ。おまけに「日は真昼 日は真昼」とあるにかかわらず、夕暮れの光景をイメージしてしまったのだ。なんとも恥ずかしい限りの聞き間違いであるが、試しにご想像願う・・・秋の日暮れ時、若い(これも私の想像)「坊んさん」が墓場に曼珠沙華を摘みに行く光景を・・・

私は思わず身震いした。なんと恐ろしい歌だろうと・・・

妻の師匠が歌い終わった後、その感想を妻に話したら・・・思いっきり笑われてしまったが、今もそのときのイメージは消えていない。こんな季節になり、日暮れ時に道ばたで曼珠沙華を見かけると・・・思わずあたりを見回し、「坊んさん」の姿を探してしまう。

これも一種のトラウマであろうか・・・

この季節、大和の野辺(というよりは道ばた)に次に目につくのがニラの花だ。

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以前はあまり見かけなかったが、ここ10年ぐらいで、あちらこちらで見かけるようになった。白い・・・可憐な花が、あちらこちらのガードレールの下などに秋風に揺れているのだ。あのスタミナ食でも有名なニラがこんなにもかわいらしい花をつけることを知ったときは、驚きだった。 ふと思う・・・ひょっとしたら前々から、今の様に咲いていたのかもしれないが、その存在に気が付かなかっただけのことかもしれない。

ニラは古くからこの国の人々とはかかわりが深く古事記では「加美良(カミラ)」、万葉集では「久々美良(ククミラ)」と記されている。また正倉院文書には彌良(ミラ)とも記されており、どうやら古代においては「ミラ」と呼ばれていたようだが、平安期に「ニラ」とも呼ばれ始め、「ミラ」という形を駆逐して今に至る。

伎波都久の岡のくくみら我れ摘めど籠にも満たなふ背なと摘まさね

作者不詳 万葉集巻十四・3444

じつのところを言うと、我が家の裏庭にも何時の頃からかこのスタミナ野菜は自生し始め、時折その青々とした葉を引きちぎっては夕餉の足しにしている。

最後にご紹介するのは・・・萩。

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マメ科ハギ属の落葉低木の総称。その語源は「生(ハ)え芽(キ)」だとする説があるが・・・私にはちょいと苦しいような気もする。山上憶良

萩の花 尾花葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝顔の花

万葉集 巻八・1538

なんて歌もあるほどで、秋の花の代表格だ。万葉人が極めて愛した花で、万葉集中141(あるいは142)首に登場する。万葉集では最も多くの歌に詠みこまれている花である。外来の派手な花々が目につくこの頃ではあるが、かつてのこの国の人々は、かような控えめな・・・楚々たる花を愛していた。わが愛する万葉歌人大伴旅人も然り。その臨終を前にして「萩の花 咲きてありや」と呟いているほどだ。大和の秋の野辺になくてはならない花だ。

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