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大和逍遥   

別に運営している「三友亭雑記」というブログのバックアップである。

大古事記展と正倉院展

さて・・・上に「私のような翻刻の苦手なものにとってはところどころしか判読できない。」とは書いたが、そこは天下の天理図書館、用意周到である。あらかじめ全作品(「作品」と いうのも当たらないか)の翻刻文を用意して下さった。おかげで、家に帰ってからではあるが、このそうそうたるラインナップの、ごく私的(全てがそうではないが)なやりとりを見て取ることが出来た。お裾分けに次回は二つ三つ、翻刻されたそれをお示ししよう。

なんて言って前回の記事を結んだのだが、先日の文化の日、また新たに出かけることがあって・・・今回はそちらの方の報告と言うことで、前回のお約束は次回に回すことにする。

今回私が出かけていったのは、表題にもあるとおり奈良県立美術館に於いて行われている「大古事記展」と奈良国立博物館において行われている「正倉院展」である。前者は奈良県において継続して行われている、、記紀・万葉プロジェクトの一環、古事記を題材とした美術作品、古社の神宝、考古・歴史資料などから、『古事記』の物語やコスモロジー、成立から 今日までの読まれ方の変遷をご紹介を目的としたものである。後者は多くの方々がご存じの奈良国立博物館の秋の恒例の特別展である。今年は天皇皇后両陛下の傘寿記念。今月中旬には 両陛下の行幸もあらせられると言うことで、例年にもまして気合いの入った展示ゆえ、これは見過ごすことが出来ない。

・・・とはいえ、「大古事記展」はともかくとして、「正倉院展」は毎年多くの観覧客を集める人気行事、週末に出かけるとなれば、かなりの待ち時間を覚悟しなければならない。ちょ いと調べてみたら、週末では2時間は待たなければならない・・・と書いてある。けれども、どうしても見たいのだから仕方がない・・・なるべく待ち時間を少なくするためには・・・と調べてみると夕刻近くの時間帯ならば比較的待ち時間は少なく済むとのことでなので、こういった催しに出かけるときは午前中に出かけて観覧が終わった後にどこぞで昼食をとるいつもの行動パターンを変え、昼食後に奈良へと出かけることにした。

家を出たのは午後1時少し前、奈良市に入るまでは順調に車を走らせることが出来たが、奈良公園に近づいたらどうもいけない。上の二つの催しに加え、奈良公園は1年でもっとも多くの観光客が集まる季節、車の混み用は尋常ではない。加えてどこの駐車場も満杯で、予定していた駐車場も満車であった。しかたなく、奈良公園からはちょいと離れたJR奈良駅そばの市営駐車場に車を止め、バスで奈良公園へと出かけたが・・・これが失敗であった。

私はまず「大古事記展」の行われている県立美術館に向かったのであるが、通常ならJR奈良のバス停から美術館の最寄りバス停である県庁前までの所要時間は5分強、ところがこの日は上にも述べたように奈良公園周辺の道は混雑を極めていた。20分たっても30分たっても目的地には着かない。これならば、駅から歩けばよかったとは思ったが後の祭り・・・バスが何とか県庁前にたどり着いたのは午後3時少し前、急ぎ足で美術館へと向かう。

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美術館のもぎりの前には10名弱の行列が出来ていた。これは驚くべきことである。私は幾度かこの美術館において行われた特別展にきたことがあるが、チケットを買うのに行列の後ろに並んだのは初めてである。今回の特別展の展示物の内容が内容だけにこれだけの人が集まったのか、それとも「正倉院展」と同時開催ゆえ、そちらの観覧客の一部がこちらに流れてきたのかは知らないが、この美術館にしては異例の混雑である。

胸をふくらませながら私は会場に入る。お目当ては・・・石上神宮所蔵の「七支刀」である。日本史の教科書でお目にかかった方も少なくはないかと思われるこの品物は石上神宮の御神体に準じるご神宝で、中央の幹にあたる部分には61の文字が金象嵌(きんぞうがん)されており、太古の昔、この刀が百済王から倭王に贈呈されたものであることを語っている。その61の銘文には「泰■(■は和と推定される)四年」と刻まれてあり、この「泰和」を東晋の太和と考え、その四年、すなわち369年にこの刀が作られたとするのが一般的な見解である。そのため「日本書紀」の神功皇后の条に記された「七枝刀」をこれにあてる見方が古くからあるが、それはともかくとして、この「七支刀」は、古墳時代倭国と東アジアの交流を考える際、忘れてはいけない貴重な資料であることは言うまでもない、古代史不安にとっては垂涎の代物である。滅多の目にすることの出来ない逸品で、この機会を逃したら、次にお目にかかれるかどうか予想もつかない代物だ。加えて、先日玉村の源さんのブログでもちょいと話題になっていたこともあり、私は是が非でもこれが見たかった。

そして・・・第4展示場・・・それは・・・薄暗い展示場の中、ほのかな照明の中にぼうっと浮かび上がるようにあった。残念ながら、照明の暗さと最近とみに進んだ私の老眼(うかつにもこの日老眼鏡を忘れてしまっていた)とで、私の興味の対象であるその銘文はしかとは読み取れなかったが、私が小学校の時に中央公論社の「日本の歴史」の白黒の写真にてその存在を知ったときからのあこがれの対象であった古代の破魔の刀は、圧倒的な存在感を以てそこに輝いていた・・・いや、1600年以上の前の品物であるだけに輝いているはずはない・・・けれども私には、そんなふうに見えた。

しばし見入る。感動が私の内部からわき上がる・・・言いようのない思いが私の胸中を駆け巡った(ちょいとオーバーな表現である)。

さて、次に目についたのが古事記の本居宣長手択本である。手択本とは持ち主が手元において愛読した本のことで、手択はとは「手あか」のことである。無論その持主は誰であっても良いわけではなく、主に有名人あるいは著者であることが条件となる。従って、私の手元にある万葉集(学生時代から塙書房のものを使っている)や古事記(これは楓風社・・・今の「おうふう」)にも、かなりの手垢がついて、どうでも良いような書き込みがあちらこちらにしてあるが、このようなものを手択本とは言わない。

展示されていたそれは、古事記の寛永版本に細筆によって細かに書き込みがしてあり、この書き込みが後の彼の著作物の種(古事記伝なんかそうかな?)となっていったことを考えると非常に興味深いものがあった。その細かな書き込みの几帳面さはまさに宣長の学の厳密さを物語っているように思われ、振り返って私の塙本万葉集や楓風社古事記にある書き込みを思い起こしたとき、思わずかぶりを振ってしまった。

さて、時刻は4時近くになってきた。正倉院展に急がねばならない。時刻が時刻で会ったため待ち時間のことなど考えると、今日は無理かもしれない・・・とは思ったが、奈良国立博物館までは徒歩で10分ほどの距離、ままよと思い足を運んでみた。

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ご覧の通りの行列があったが表示を見ると待ち時間は30分ほどとあった。これならいけるとその末尾に立ち順番を待つ。行列の流れは思いのほか早く、すいすいと進むことが出来15分ほどで中に入ることが出来た。けれども、館内はぎゅうぎゅう詰めという言葉ほどではないがひどく混雑しており、展示物の回りには幾重もの人垣が出来ていた。

これではいちいち全部見ていたら時間がいくつあっても足りない・・・そんなふうに感じた私は、特に今回見ておかなければならないとあらかじめ考えていたいくつかの展示物のみに時間をかけることにした。以下にその見ておかなければならなかったものとあらかじめ考えていたものを列挙しよう。

桑 木 阮 咸(くわのきのげんかん)、  衲 御 礼 履(のうのごらいり)、  人 勝 残 欠 雑 張(じんしょうざんけつざっちょう)、   鳥 毛 立 女 屏 風(とりげりつじょのびょうぶ)、   黄 金 荘 大 刀(おうごんそうのたち)、   鳥 獣 花 背 方 鏡(ちょうじゅうかはいのほうきょう)、   白 瑠 璃 瓶(くるりのへい)である。

種を明かせば、前日放送されたNHKの日曜美術館(11月9日再放送予定)においてこれらの展示物が紹介されており、その見事さに是非ともこれだけは見ておかないとと密かに心に決めていたのである。これまたレクチャーを聞いてから実物を見た形になったために、非常に面白く見ることが出来た。

そのほか、伎楽面 崑崙(ぎがくめん こんろん)  伎楽面 酔胡従(ぎがくめん すいこじゅう)なんてのも、以前伎楽を見た経験があったせいか興味深く見ることが出来た。

一々の展示物についてはもう詳しくは語るまい。上のリンクにあったこの展覧会のホームページを見れば済むことである。あるいは日曜美術館の再放送を見れば、私が何万言を費やすよりもよほど効率が良い。是非ご覧いただきたい。ただあえて一言添えるとすれば・・・そこにある古代人並びにこれらの品々を今の世に伝えるために尽力した人々の叡智と努力とにただただ頭が下がる思いを感じる・・・ということになろうか。

ありきたりの表現ではあるが、それ以上の言葉は私には思いつかない。

最後に・・・博物館を出た私は、もうバスに乗る気にはなれなかった。バス停で待っていてもいつやって来るかわからない・・・駅そばの駐車場までは歩いて行こうと思い、奈良公園をゆっくりと歩きはじめる。

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空はまだ明るかったが、月の光はその半円をくっきりと見せるのに充分なものであった。そして・・・興福寺を過ぎようとしたとき、南円堂の背後に沈む夕日が見えた。そしてその赤い光の中、黒々とした三重の塔の姿が・・・・

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冬はもうそこまで来ている・・・・