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大和逍遥   

別に運営している「三友亭雑記」というブログのバックアップである。

上京記・・・4

今回の東京行きもいよいよ2日目である。昨夜、「ガリ」と竹鶴12年物の絶妙の取り合わせを発見した私は、そのアルコールの摂取量にもかかわらず、朝から猛烈な食欲に襲われていた。今回の慰安旅行では朝食はセッティングされていなかったので、各々が勝手に朝食を摂ることになっていた。そのため、一行の他のメンバーは近所のコンビニあたりから朝食を購入し、それぞれの部屋でとっていたようであるが、私にとって宿をとった際の最大の楽しみは、その朝食である。それもバイキングであれば申し分はない(昨夜の宴もバイキングであったのだが・・・)。

フロントに向かい、朝食を注文する。少々高価ではあったがホテルの朝食はこんなもんさと覚悟を決めて朝食券を購入。早速会場に入る。可もなく不可もなし・・・至極当たり前の朝食バイキングである。強いて難癖をつけるとなれば、少々料理の種類が少なかったか・・・けれども、パンは美味。ちょいと食べ過ぎた・・・まあ、これは私がどこかに泊まった時にはいつものことで、この食べ過ぎは美味であったパンのせいというよりは、私の食い意地の張り過ぎが理由であることは言うを待たない。

朝食が終わり、荷物を整理し仲間たちにしばしの別れを告げ、ホテルを後にした。わが愛すべき同僚たちはみんなで浅草花やしきに行くという・・・が、先日も書いたように、せっかくの東京行き。私はどうしても足を運びたい街があった。神田神保町・・・これがその街の名である。

ホテルのフロントから出て、ほんの1分、半蔵門の駅から地下鉄に乗る。九段下の駅の向こう・・・2つ先の駅が神保町だ。雨がしょぼしょぼと降っている。これは、これから古本屋回りをしようとしている私にとって最悪の条件である。なにせ、購入して手にぶら下げて歩く物はすべて紙。水濡れは厳禁である。しかも、雨が強くなれば傘を持たなければならない。片手がふさがってしまうのも、古本屋回りをしようとする時の条件としては望ましいものではない。けれども、降っているのだから仕方がない。せめて、この雨が強くならないように・・・出来る事ならば、程なくこの雨が上がってくれることを願いながら私は心地よい地下鉄の揺れに身を任せた。

DSC_00675分程して、神保町に着く。雨はまだしょぼしょぼ降り続いている。時間は9時をちょっと回ったところ。ほとんどの古書店は10時に開く。1時間も待たなければならないのであるが、そんなに早く私がホテルを出たのにはわけがある。以前、幾度もふらついたことがあるとはいえ、それはもう30年ほど前の事、この街の地理に少々自信がなかったので、その地理を予め歩き回って、古書店の所在を確認しようとしたのだ。しかも、この30年間にはバブルの狂乱の時代があった。地上げなどの影響で、大阪などでは、名の通った古書店が廃業したり、郊外の町に移転したりもしていたので、この街がかつてのままであるかが心配であったのだ。

DSC_0069歩き回る事・・・30分。目についたコンビニで傘を購入し、かつてふらついた辺りをいちいち確認してまわる。めぼしい古書店は以前のままだ・・・そして私の記憶もそう狂ってはいないことを確認した私は、ちょいと安っぽいコーヒーショップの椅子に腰を下ろし、190円也の熱いコーヒーをすすりながら、あらかじめ調べておいた日曜日にも開いているはずの幾つかの古書店を、どの順番で回って行くかをゆっくりと考えた。

さて10時だ。いよいよ30年ぶりの神保町周りが始まる。

最初の店・・・店の入り口にある傘置きに先ほど購入したビニール傘をさし(これがまた面倒くさい)、店内に入る。お目当ての国文学のコーナーの行くのは最後の楽しみにとっておいて、先ずは店頭の均一本のコーナーの並べられた書物の背表紙を丹念に眺める。また、店頭のショーウインドウにこれ見よがしに置かれた全集類を見て恍惚とするのもいい。続いて、ずらっと並んだ書棚の前に平積みにされたまだ整理もされていないような書物たちを腰をかがめ、その背表紙を確かめる。時折背表紙が向こうを向いている時があるので、そんな場合は背中をちょっと向こう側に伸ばして反対側から覗き込む。

これが私の古書店に入った時の儀式である。そしてこの儀式を終えた後、始めてお目当ての書架を眺めることにある。すると・・・3冊ほど目についた書物があった。それがなんという本なのかはここでは言わない。まだ購入すると決めたわけではないからだ。先日も言ったように、他の店でもっと安価で販売されているかもしれない。そんな時にはそちらで購入した方がいいわけだし、そうでなくてもあまり早いタイミングで買ってしまうと、重い荷物を持って長いこと歩きつづけなければならない。とりあえず、その書物の状態、価格を記憶に残しておいて店を出る。

それから、いくつの店を回ったであろうか。これは・・・というものが表通りからちょっと外れた店の店頭に並べられていた。この店はあらかじめリストに入れていた店ではなかったのだが、こんなものが置いてあるならば入らないわけにはいかない。早速中に入ると、「10000円以上お買い上げの場合、送料は当店で負担させていただきます。」と張り紙がしてあるではないか。そして先ほど私の目を引いた書物の価格が10000円。ピッタリである。その・・・先ほど私がその店頭で目を引かれた書物とは・・・これだ。

IMGP4319大漢和辞典。全てが漢字で書かれている万葉集を読もうとする際には必須の書物である。かなりの分量の書物ゆえ、結構値が張っていて、なかなか手が出なかったというのもその理由の一つであるが、なによりもこれまで私が転々とした幾つかの職場には必ず置いているものであったので、敢えて購入することもなくいたのだが・・・あと数年すれば私も定年。職場を離れる時が来る。その時にはどうしても手元に置いておきたい。しかも値段は極端に下がっている(これは近年新たに巻を補った新訂版が出たためであろうが、なあに私にはそこまでのものは必要ない)。これは・・・買わねばならない・・・私は思った。けれども、気にかかることが1つある。索引も含めて全13巻。その1冊が枕になるほど分厚いこの大辞典を、すでに飽和状態となっている我が書架のどこに置くべきかということである。

けれども・・・ここでこの大辞典に巡り合えたのも何かの因縁。私はかなり長い時間、熟考を重ねた上、購入することに決めた。置き場所は・・・まあ、後から考えればいいさ・・・と開き直り、店の方を呼ぶ。店の方はこの大辞典をくるんでいたビニールの包装をはがし、書物の状態を確認させてくれた。上々の状態である。私は早速宅急便の荷札に住所と電話番号を記入し、1万円札1枚を店の方の私、再び路上の人となった。

そして、更に幾つかの古書店を回った後、最初に入った店に戻ることにした。先ほどの3冊がどうにも気にかかったからである。

その3冊とは・・・国史大系日本書紀索引、同じく国史大系続日本紀索引と万葉集総索引である。

日本書紀続日本紀の索引は今日ネット上にもかなり精巧な検索サイトがあり、普段はそれを利用することが多いのだが・・・そして、それで充分だと思うのだが・・・やはり紙のものを手元に置いておきたい・・・これは世の書物好きの性である。

万葉集の総索引の方は、すでに学生の頃、すでに購入し手元においてはあったが、もう購入してから35年は経っている。そろそろ、背表紙あたりからバラバラになりそうな気配になっている。ここはもう1冊(正しくは一揃え)購入しておくにしくはない。万葉集の索引はこれまた近年、CDロム版のかなり便利なものが出されており、そっちの方がいいに決まっているが(欲しくて欲しくてたまらないのであるが)、いかんせん・・・極めて高価な品物である(無論私の財布の中身に比べてである)。それに・・・その値に相応しいだけの仕事を私がするわけでもない。そうである以上、ここでもう1冊買っておこう・・・そんなふうに思ったのだ。それに、件のCDロム版の索引が出たおかげで、この総索引は私が学生の頃購入した時の半分に値が下がっている。

私は3冊合わせて金8000円也の書物を丁寧に包装してもらい店を後にした。

 

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