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大和逍遥   

別に運営している「三友亭雑記」というブログのバックアップである。

元興寺の鬼と不審ヶ辻子

先日、元興寺の鬼という説話を紹介した。今日はその鬼に関連した伝説を一つお届けする。その時の記事にもあったように元興寺は今、奈良町と呼ばれている地域にあるが、その奈良町内の不審ヶ辻子ふしんがづしという地名に関わる話だ。

その地名は、現在の奈良ホテルのすぐ下にある。

その昔、御所馬場というところにある長者が住んでた。ある夜のこと、その屋敷に盗人が1人忍び込んだ。病の妻と幼い娘とになんとか米を食べさせたいと思った男が忍び込んだのだった。とはいえ盗みは盗み。長者は男を許さない。家の者に命じじて鬼隠山きそんざんという山から谷底に突き落とした。その後、長者の家の倉が収穫された米俵で満たされる頃、元興寺に夜ごと鬼が出るという噂が立ったのだが、どうやら長者が殺した男が鬼と化したものだということが分かった。仕返しを怖れた長者はこの鬼を退治しようとふさわしいものを探したがなかなかみつからない。 Bakemono Gagoze やっとのことで元興寺で修行していた小僧が名乗り出た。小僧は元興寺の鐘楼で鬼を待ち伏せて激しく闘ったのだが、なかなか勝負はつかない。やがて春日山から朝日が昇る時刻となった。鬼は知っての通り太陽が苦手、鬼隠山の方に逃げ、小僧はそれを追いかけた。けれども鬼は奈良町のとある横丁のところで姿を消してしまった。 その場所が不審ヶ辻子だというのだ。鬼を見失った不審な辻ということでこの名がつけられたのだという。 この時小僧と鬼が戦った鐘楼の鐘には鬼が残した爪痕がたくさん残されたというが、今この鐘は新薬師寺に移されているのだという。そしてこの勇敢な小僧こそ怪力の法師道場であった・・・

という話だ。いきなり気持ちの悪い絵でびっくりされたかと思うが、がごぜ、あるいはがごじなどと呼ばれている妖怪である。がごせ、がごじなる語は地方によってお化けを表す幼児語にもなっていると聞くが、この語が元興寺・・・がんごうじ・・・が訛ったものだとも言われている。

鬼隠山というのは奈良ホテルのある小高い丘。そこからどこの谷底に落としたら死んでしまうのか・・・と思うしかない程度の高さなのだが、それは昔話である。大目に見なければならない。第一、話に出てくる道場法師は飛鳥時代の人。元興寺が明日香にあった頃の話だ。だとすれば不審ヶ辻子は明日香村のどこかにあるのでなければならない。

興味深いのは、この話においてどう読んでみても悪者は御所馬場の長者。むろん盗人に入った男にも罪はあるが昔話の常として普通はこのような立場に対しては同情的なもの。しかし・・・この話では鬼の存在に怖れる長者の存在はあるが、決してひどい目にあってはいない。ひどい目にあったのはあくまでも盗人に入った男。鬼になってしまってからも道場法師にやっつけられてしまう・・・まあ、あえてしまえばこの鬼は霊異記のそれのようにコテンコテンにやっつけられてはおらず、最後のところで逃げ切った点ぐらいか・・・