大和逍遥   

別に運営している「三友亭雑記」というブログのバックアップである。

三友亭昆虫記・・・クロアナバチその後

先日、職場の植え込みで見かけたクロアナバチ(?)の母親の産卵の様子についての文章をお読みいただいた(三友亭昆虫記・・・クロアナバチ)。そして・・・それでこのことに関しては、私の中で終わったことになっていたのだが、昨日の朝、その営巣の行われた場所の近くに車を止め外に出ようとしたときのことだ。先日と同じように4cm弱ほどのその昆虫が、巣穴に盛られた土塊の植え50cm程上空をホバーリングしながらこちらに向かって盛んに威嚇をしている。

この場所はこの種の蜂の営巣にふさわしい場所であるのか。それでまた他のクロアナバチの母親が営巣を始めたのか・・・また、あの大変な作業が繰り返されるのか・・・そんなふうに思いながら、私はその場を離れた。

昼食をとった後のことである。ちょいと用事があって車に戻ると、なんとそのクロアナバチの母親は先日、私が見かけたまさにその巣穴をせっせと掘り返しているではないか。自分の頭の三分の一、あるいは半分ほどもある小石やらをその強靱な銜え、後ずさりをするようにせっせと運び出している。はたから見る限りでは、その穴は彼女がこの穴を埋め戻す前のその大きさを取り戻している。

何をしているのか・・・そんな思いで私はじっと見入ってしまった。

けれども、彼女の作業は黙々と続けられている。彼女の複眼にはもはや私の姿などは映らなくなっているのだろう。彼女はただ己の任務をひたすらに遂行しているのみである。

そうだ・・・私にも私の任務がある。いつまでも彼女につきあっているわけにはいかない。私はその場を離れ、そして机に向かった。そして程なく、昼食後のひととき自分の目にした光景のことなどは忘れてしまっていた。そして、そのクロアナバチの母親のことを思い出したのは、仕事も終え、帰宅するために車に乗ろうとしたそのときである。

ふと昼ことを思い出し、巣穴のほうを見ると、その巣穴は放置されたままで母親はいずこへか姿を消していた。先日から、そして、朝からの一連の出来事を総合して私は次のように考えた。

先日この場所に穴を掘り子供を生み付けた母親は、その子の孵化の時期を知っていて、子供が巣穴から出やすくするために、その蓋となる土塊をせっせと掘り返してあげていたのではないか。そして、子は見事に孵化し、親子共々旅立っていった。

のだと・・・私の無知さ加減を知ったのは、その直後だった。

母親が帰ってきたのだ。そのたくましい脚に、巣穴に入るか入らないかぎりぎりに大きさに成長したキリギリスを抱えて・・・

地面に降り立った彼女は、そのバッタをその強靱な口にくわえ後ろ向きに穴へと入っていった。そうなのだ。子供を生み付けて数日たったこの日、彼女は我が子のための餌が底をついているだろうことを思い、代わりの餌を補給していたのだ。そのために彼女は先日と同じ作業をせっせと繰り返していたのだ。

恥ずかしながら私は子育てをする昆虫の姿を初めて見た。

よくもまあ卵を産み付けた場所を忘れずに・・・それに、餌を運ぶタイミングまで考えて・・・。彼女の知恵に私は驚かされた。そして再び繰り返された、この気の遠くなるような作業・・・そして、この作業は地下に生を受けた幼虫が巣立つその日まで繰り返され続ける。そしておそらく、彼女の生ある限り、この”産み育てる”という作業は絶えることなく繰り返されてゆくのであろうと思う。

まさに「母性」の語がふさわしい行為がそこでは行われていた。