大和逍遥   

別に運営している「三友亭雑記」というブログのバックアップである。

帰郷の記・・・宮城峡

長々と続いた今回の帰郷のレポートも今回が最後となる。1月9日から11日にかけてのたった3日間の事について書き始めて、もう一ヶ月。そろそろいい加減にしないとお付き合いいただいている皆様にも申し訳ない。

最後に訪れたのは、10日の夜に宿を取った遠刈田温泉からそう遠くはない・・・宮城県仙台市青葉区ニッカ1番地。

「ニッカ1番地?」と一瞬怪訝に感じられた方もいるかもしれないが、実際にある地名だ。「嘘だあ」と思われる方は、グーグルマップにでもこの住所を打ち込んで見られたらよろしい。ことに怪訝に思われた方ほど、その結果を見ればなるほどと思うはずである。

そう・・・ニッカウヰスキー仙台工場宮城峡蒸溜所の所在地である。

「そう遠くはない」といっても地図上の距離は40 kmほど。車では1時間かかる。県道47号線で幾つもの峠を越え川崎町に入る。そしてその街中、県道457号線へと乗り換え、またいくつかの峠道を越える。やがて457号線は仙山線の踏切を越えたあたりで作並街道に突き当たる。あとは仙山線と並行して走る作並街道を山形方面へと車を走らせるだけだ。ここからはもう10分も車を走らせれば目的地にたどり着ける。時折車窓に見える広瀬川の流れが美しい・・・

そして・・・その広瀬川と新川(にっかわ)の合流点が、宮城県仙台市青葉区ニッカ1番地である。そしてその合流点より広瀬川を若干遡ったところに、蒸留所内へと続く橋がある。新川橋である。

新川橋を渡り、私は広い敷地に延びる道沿いに駐車場を目指す。そこで車を降りれば見学の受付所まではわずかである。見学するにはあらかじめ申し出ておく必要がある。したがって・・・私の名は向こうの名簿には登録済みである。見学の開始は午前10時。あと20分ほどである。そこそこの広さのある待合で、パネルに流れる・・・この会社の創業者とその夫人との心温まる美しい物語を伝える映像を見る。もちろん、皆さんご存じのあの話である。

余談にはなるが、私はこの話のあらましをかなり前に知っていた。それはもう20数年も前になるであろうか。私は大和のとある酒屋でこの会社の商品を1本購った。確かモルトクラブであったかと思う。その時に店の方から頂いた小冊子に、この物語が紹介されていたのだ。私は一読するなり、この会社の商品のフアンになった。何もこの会社と創業者とその夫人との間の物語のみに心惹かれたわけではない。この会社の創業者の、若い頃に抱いた夢の確かさと、その夢を実現して行く行動力に・・・そして、自ら信じるもののためには一切の妥協を許さない・・・そんな生き様に惹かれたのだ。この魂が受け継がれているのなら、この会社の商品を何よりも信ずるべきである・・・そう思ったのである。

さて・・・時間が来た。バスガイドのような制服を着たお嬢さんが流暢な説明を始める。ひとしきり見学の予定や心構えを聞いた後、その長靴を履いたお嬢さんの後をついて受付所を出る。施設の詳細については、私がここでくだくだしく話すよりも、当蒸留所が用意してくれているサイト上のガイドを見た方がよく分かるだろう。

しかしせっかく行ったのだから、その証明としての拙い写真を以下に幾つかお示ししよう。

[caption id="attachment_7568" align="alignnone" width="300"]IMGP5233 キルン塔と蒸留塔(カフェ式連続式蒸溜機)[/caption]

真ん中に見える、屋根のとがった建物かキルン塔(乾燥室)である。大麦麦芽を乾燥させるための建物で、ウイスキーの独特なピート香(かのドラマでしきりに「スモーキー・フレーバー」と言っていた。)は、大麦麦芽をピートでいぶして乾燥させる間に自然に染み込んだ香りなのだという。

手前がカフェ式連続式蒸溜機が置かれた蒸留塔。トウモロコシからグレーンウイスキーを作っている。このカフェ式連続式蒸溜機というのは、、現在ではスコットランドでも珍しいものらしいが、一体それがどんなものかは知らない。今回は見学対象ではなかったのでガイドさんもお話ししてくれなかったので仕方がない。なんでも、他の連続式蒸溜機と比べて操作が難しく、アルコールをとりだす効率も劣るらしいが、原料の香味が残りやすいらしい。

[caption id="attachment_7569" align="alignnone" width="300"]IMGP5240 仕込棟[/caption]

[caption id="attachment_7570" align="alignnone" width="300"]IMGP5243 仕込樽[/caption]

仕込棟とその内部に配置された仕込樽である。ここでは蒸溜まえの「糖化・醗酵」が行われている。糖度13%前後の糖化液をまず作り、それを醗酵槽に移し、酵母を加えて約72時間をかけて醗酵させる。すると・・・アルコール7~8%のビール状の液体に変化する。これがあの魂の水の種となるのだ。

とはいえ・・・この棟の中は発行が行われる場所。私たちが通る見学用の通路から、仕込樽は厳重に隔てられているが、棟内全体に糖類の発酵する酸っぱいにおいが満ち溢れ・・・これは決して心地良い香りだとは言えない。

そんな酸っぱいにおいの飲み物を、魂の水として世に出だすのが蒸留の過程である。

[caption id="attachment_7576" align="alignnone" width="300"]IMGP5250 単式蒸留器[/caption]

先ほどは連続式蒸留器の設置された蒸留塔の姿をご紹介したがこちらは単式蒸留器の置かれた蒸留棟の内部。ここ宮城峡の蒸留所ではスチームによって加熱する手法がとられており、直火で加熱蒸留する場合より、まろやかなモルトウイスキーが仕上がるのだという。

その蒸留器の上部には、ウイスキーという西洋の産物にはふさわしからぬしめ縄が・・・

[caption id="attachment_7577" align="alignnone" width="300"]IMGP5249 蒸留器に張られたしめ縄[/caption]

ご存知の方は多いと思うが、この会社の創業者はもともとは広島の造り酒屋のせがれ。代々受け継がれた酒造という生業のなかでしみついた感性の中には、どうしても消してしまえぬものがあったのだろう。そこには「酒」という聖なる飲み物を世に出だす作業自体が聖性を帯びたものであるというぬぐいがたい思想があったはずだ。

そして・・・蒸留棟で産声を上げたウイスキーはここで永い眠りにつくことになる。

[caption id="attachment_7578" align="alignnone" width="300"]IMGP5259 貯蔵庫内部[/caption]

ここでの永い眠りが、ウイスキーというものにとってどれだけ重要な意味を持つかは、店頭に並ぶウイスキーの値を見れば瞭然である。同一の銘柄ではあっても、5年ほどしか眠りにつかなかったものと、10年以上の眠りから目を覚ましたものとでは全くその値段は異なっている。

いまここで・・・魂の水は年ごとに少しずつの分け前を天使に与えながら、その時の流れという天使の力によって少しずつゆっくりと成長を続けるのである。

さて・・・最後に訪れたのはゲストホール。ウイスキーの貯蔵庫を改装したこのホールでは、ウイスキーやアップルワイン等の試飲を3種類まで無料ですることができる。この日の試飲メニューは「竹鶴」「スーパーニッカ」「アップルワイン」であったように記憶している。

「~~あったように記憶している。」とは、立った一月前の体験にしてはいささか心許ない表現であるが、仕方がない。私はこの日のドライバー。同行した家人と愚息はこれらを楽しんだようであるが、私がこれらの珠玉のしたたりを試すわけにはいかなかった。

しかたなくソフトドリンクと、そのために甘くなった口をなおすため、備えてあった冷水機の水を口にした・・・が、驚くべきはこの水である。この会社の製品は、その敷地西半分を取り巻くように流れる新川の水を用いているが、このゲストホールの冷水機に蛇口から流れ出る水は、まさしくその新川の水だったのである。かつてこの会社の創業者は自身で新川の水を口に含み、この地に蒸留所を建てることを決したと言うが、彼ほどの味覚のない私にも、この水のすばらしさは理解できた。無味と言えば確かに無味なのであるが、その水が喉を過ぎてなお口中に残る嫋々たる余韻は、この水を口にして蒸留所の建設を決した創業者の判断の正しさを物語っていた。

この水で氷を作り、この水によってつくられたウイスキーでオンザロックを作ったならば・・・あるいは水割りを・・・

夢想は広がる。私はゲストルーム内に併設された売店でその姿を探す。しかし残念ながらその姿を見つけることはできなかった。

かといってせっかくここまで来たのだから・・・と言って購入したのが・・・

[caption id="attachment_7579" align="alignnone" width="300"]IMGP5263 蔵出し原酒3種とショットグラス[/caption]

なんでも、ここでしか買えぬという蔵出し原酒だそうだ。予算の都合で小瓶しか買えなかったが、3種類の原酒の味を楽しむことができた。そして・・・オリジナルのショットグラス。ガラスの質が上々で厚さも程よく口に当たった時の感触が何とも言えぬ。当分はこれでちびちびと・・・・やることだろう。

それで3種類の原酒の味は?・・・・・

そんなもの、私の腕で表現できるわけがない・・・ただいえるのは、これらをどのようにか組み合わせ、さらには上述の水を加えることにより、下のような珠玉の滴りが出来上がってくる・・・ということである。