大和逍遥   

別に運営している「三友亭雑記」というブログのバックアップである。

帰郷・・・10

石巻の市内を車で一回りする。中心街は人通りもまばらで宮城県で2番目の人口を誇る町としては余りにも寂しい状況だ。商業街の平日の昼下がりという条件を考慮に入れても、かつての賑わいから見れば、その衰弱は隠しようもない。郊外に巨大な店舗が続々と進出し、商業の中心がそちらに移動した結果なのだが、そこに今回の津波だ。

郊外の道路沿いの商業地は内陸に位置し、被害の度合いはかつての中心街のそれに比べればごくわずかであったのだろうか・・・・・・倒壊したり、破壊されたりしているような建築物が見あたらない。

この町のドーナッツ化はますます拍車をかけられるに違いない。かつての中心街がわずかばかり保っていた余力も暗く冷たい波濤が根こそぎ奪い去ってしまったかのように私には見えた。

私がこの街を闊歩していた頃、この郊外に現れた巨大な商業地域はまったくそのかけらさえもなく、息になれば黄金の波が延々と続く田園地帯であった。対して中心街は・・・私の空虚な回顧はもはや意味をなさない。いくら過去を振り向いてみたところで、石巻のような地方都市においての商業地域のドーナッツ化は、今、この国のどこでも目にできるありふれた現象なのだ。

人が集まりそこに「あきない」が始まる。その「あきない」がさらに人を集め、「あきない」がさらに巨大化する。そんなごく当たり前の事実をこの国は捨て去ってしまった。「あきない」はその町の人口を越えて、巨大化を思考する。その町以外の人々をも巻き込んでその収益を増大させようとする。日常の何気ない生活の中で生まれる当たり前の需要に対して、当たり前の供給が行われる・・・そんな「あきない」はもはや細々と命脈を保つことしか許されなくなっている。

そしてこの町では、あの日突如襲来した悲惨によって、その全国的な傾向の速度が速まった。

後戻りは・・・もはや望むべくもない。

とするならば、この町の復興のあり方の一つとして、今、進みつつあるこの現象をいかに上手に取り組んで行くことを考えていかなければならないのだろう。それがいかに人々の懐古の情を置き去りにしてしまうものであっても、それがこの町の人々がよりよく生きるための復興であるのならば、目をつぶらざるを得ないものなのだろう。何が最善か・・・それはそこに住む人々が決めるべきことなのだ。

13時30分頃・・・私は石巻を後にした。県道16号線から三陸自動車道に乗り、仙台空港を目指す。私が乗る大阪伊丹行きは17時45分発。時間にはまだまだ余裕がある。けれども、昨日、兄から聞いた話によるとこの高速は平日の昼間、非常に混雑することがあるらしい。あの日以来、県の東西を結ぶJR仙石線東松島付近で途絶した。代替えのバス運行はあるものの、多くの人々は自ら車を走らせる以外にすべがないのだという。なにせ宮城を代表する二つの都市、仙台ー石巻を結ぶ路線だ。この路線が途絶したままであることは、多くの人の移動に影響を及ぼす。加えて、この平日の昼間は復興のための工事車両が多くこの道を利用する。私はもしもの渋滞に備え、早すぎるとは思いつつ石巻を後にした。

予想に反して道はすいており、車は1時間余りで空港へと到着した。15時少し前だ。出発まで3時間弱。どうやって時間をつぶそうかとは思ったが、今回の帰郷の用向きが用向きなだけにこれまで土産らしいものは一切見てこなかった。こうやって時間が余ったのを幸いに、空港の土産物屋をのぞく。けれどもそれだけでは3時間弱の時間を潰すことは困難だ。空港3階にあるラウンジで一杯傾けながら空港を発着する飛行機でも眺めてやれと3階に向かおうとしたが、3階に向けてのエスカレーターは閉鎖されていた。

3階はあの日から閉鎖されたままなのだ。

まさか、こんな建物の3階まで水が来たわけもないはずだ。とすれば地震による損壊か・・・

津波のあまりの被害の大きさについつい忘れがちになるが、あの日は地震そのものも並大抵のものではなかった。宮城県北端の最大震度を計測した地域では震度7、その他多くの地域が震度6強を計測していたのだから、そのことによる被害にも計り知れないものがあったはずだ。そういえば震災当時は仙台駅の天井が崩れ落ちる映像などが繰り返しマスメディアは伝えていた。あの暗く冷たい波濤がもたらした厄災の大きさのあまり我々はついついその揺れによってもたらされた悲惨を忘れがちになってしまう。

私もその一人だ。

やがてフライトの時が来た。日常に帰る時が来た。散々に打ちのめされた我が郷里を私はこの2日、目にしてきた。この地の人々があの日以来味わって来た辛苦のかけらすら私は舐めてはいない。けれども喪われたものの大きさはそんな私にもある程度は理解できる。その上であえて言う・・・

・・・私の故郷は・・・やっぱり、いいところだ・・・と。

広告を非表示にする